吉田アミ著『サマースプリング』

サマースプリング [文化系女子叢書1]

サマースプリング [文化系女子叢書1]

この作品の主人公である"アタシ"は現状に色々と不満を言っているけど、そこにカウンターを当てる人物が作中に登場していなくて、読者にその役目が与えられているように見えた。そして、それは他の人がやってることだと思うので、ここでは感想の要点だけ書きます。

"アタシ"は現状が嫌だと言っても高校と大学には無根拠に期待を寄せている。でもその先=自分の将来についてはノストラダムスがどうしたとか言って考えようとしない。そういう意味では問題を先送りにしているだけで、彼女は"声"によって救われているはずなのに出口のない状態が続いたまま終わってしまったように見える。加えて、閉塞感なんてものは程度の差こそあれ誰でも感じるはずで、だから個人的には、"アタシ"がどのように救われたのかという点にこそ興味があったし、そこをもっと語って欲しかったなあというのが全体的な印象です。著者にとっては逆で、救われる過程よりもあの惨状を書き記すことこそが重要だったというのを承知の上で、そう思う。

あと、全体を覆う行き場のない閉塞感はどこかワーキングクラスの憂鬱を想起させたんだけど、それは俺がサッカーとUKロックに、つまり英国にどこか憧憬を持っているから錯覚しているだけなんだろうなと蛇足を付け加えて終わりにします。でもまぁ、そういう意味では俺もこの閉塞感を楽しんで(?)いたんだと思う。